翠の風 田坂千秋さん、中本高子さん

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経験ゼロから叶えた夢

山の緑に囲まれた古民家風の一軒家。
窓からは心地よい風がそよそよと。時折、笑い合う子どもたちの声が聞こえてくる。
こんな清流錦川沿いの恵まれた環境で、長年の夢だったお店をオープンさせた女性がいる。
彼女たちが作る野菜いっぱいのお弁当や定食は、食事に訪れる方と地域を繋ぐ架け橋となっている。

いつかカフェをやってみたい
田坂千秋さん(写真左)は、広島市の出身。
大学卒業後に留学。帰国後は広島から神戸に移り、10年近く会社勤めをした。「忙しい毎日に、自然の中できちんと四季を感じられる生活をしたい」と思っていた田坂さん。
広島に戻ってからは仕事をしながら、興味のあった古民家や田舎暮らしについて情報収集をする日々。
「田舎に行って生計を立てるためには…」と考えたときに、昔から漠然と夢見ていた飲食店の開業という案がふと頭に浮かんだ。
「カフェみたいなものがやってみたいと思いながら、現実的ではないと半ば諦めていたんです。正直、本当にやるなんて思ってなかったですね」。

そんな田坂さんを動かしたのは、岩国市の北河内エリアにあった素敵な物件との出会い。
現在お店となっている古民家風の建物だ。オーナーは、広島の実家のご近所さん。
その方のお母様が住んでいた家で、住む人もいなくなり、売りに出していた。
「本当はこの家を手放したくはない」というオーナーと、「お店をしたい」という田坂さんの想いが合致した。
田坂さんの母親が仲介役となり、一度家を見てみることに。2018年頃のことである。
すると、北河内は広島からのアクセスも良く、物件はほとんど手直しする必要なしと、なかなかの好条件が揃った。
さらに、この周辺には飲食店がなく、おしゃべりできるところがないということを聞いた。「地元の方が気軽におしゃべりできる場所ができたら」と、夢がふくらんだ。

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まさかのUターン移住
さて、夢に一歩近づいたけれど、飲食店の経験はゼロ。何をどうしたらいいものかわからない。
「誰か一緒にやれる人いないかなぁ」と考えていた頃。田坂さんの母親と同じ職場で働いていた中本高子さん(写真右)の顔が浮かんだ。中本さんは、料理好きで畑仕事も好き。やりたいことが似ていた。
中本さんは広島で働いていたが、もともとは岩国市の出身。
とはいえ、北河内にはほとんど縁がなく、幼い頃に近くに川遊びに来たことがあった程度だった。
当時、長く勤めていた職場を離れるのは不安だったけれど、中本さんにも飲食店をしてみたいという小さな夢があった。現地を2人で一緒に見たとき、「ここなら夢を叶えられる!」と思った。
「自分でもまさかUターンするとは思いもせず。タイミングとしか言いようがないですね」と中本さん。
夢の実現に向け、一緒に踏み出すこととなった。

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人と人とのご縁に支えられ
「やりたいことを言葉にするって大事ですね」と田坂さんは笑顔で話す。
物件が見つかり、さて次は…というところに、今度は「いわくに創業カレッジの受講生を募集している」という情報が舞い込んできた。
締め切りギリギリセーフで申し込み、創業のノウハウを学ぶことになった。「この講座に行けたのは本当にラッキーでした」。
さほど積極的に動いていたわけではなかったと話す二人だが、家のオーナーさんが紹介してくれた地元の方々が温かく受け入れてくれ、助けてくれたのだとか。縁が縁を呼んで、2020年3月、憩い処「翠の風(みどりのかぜ)」がオープンした。
春にはたけのこ、夏になったらトマトやなす、秋にはおいも……。
地元の方からいただく山盛りのお野菜を無駄にすることなく使い尽くす、慌ただしくも嬉しい日々を過ごしている。

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ところで、この古民家風の物件、じつはまだ築20年そこそこ。古民家というには新しすぎるが、そんな風情漂う家だ。
家の中には「翠風苑」と書かれた一枚板があり、そこからとって店名を「翠の風」とした。
「ここに住んでいたおばあちゃんは美登里(みどり)さんというお名前だったそうです」
美登里おばあちゃんのご縁が息づくこの場所は、これからも人と人との縁をつなげる憩いの場として活かされ、月日を重ねていく。

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清流錦川 憩い処
翠の風(みどりのかぜ)

岩国市下454-30
Tel/0827-47-3151
営業時間/
昼ごはん 11:30~14:00
軽食・おやつ 14:00~16:00
休/水・木曜、最終火曜