山里民宿 和楽の里 坂田修作さん

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岩国から始める地方創生の夢

周東町祖生にそびえる高照寺山(標高645m)。
車一台がやっと通れるような小道をしばらく登った中腹にその農家民宿はある。
条件がそろえば荘厳な雲海を眺めることができる。
オーナーは、令和の時代に関東から移住して来た坂田修作さん。
地方創生に貢献するという大きな展望を携えて、コロナ禍のそのまた先を見渡している。

エリートの職を離れ
東京の大手エネルギー会社に勤めていた。医療や食品などのライフサイセンス事業に携り、
アメリカ赴任や経営職を経験するなど、ビジネスの最前線でキャリアを積んできた。
しかし、定年が近づくにつれ、このまま東京に住み続けることに疑問を持つようになった。
日本の人口分布は首都圏へ集中するばかりで、地方には人の手がますます入らなくなる。
それは国土の環境破壊を招き、やがては国力そのものを衰退させることになるだろう。
「なんとかしないとこの国はダメになってしまう」。
坂田さんは、地方で何か新しいことができないかと考えて、各地を泊まり歩くようになった。
そのなかの一つに、「和楽の里」があった。
当時のオーナー・藤森さんによる晩御飯をいただきながら、地元で活躍するシンガーソングライターの毛利治郎さんと
地域創生について熱く語った。その語らいも佳境に入ったころのことだった。
そばでにこやかに話を聞いていた藤森さんが、突然、こんなことを言い出した。
「ここ(和楽の里)を継いで、やってみませんか」。

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奥深き魅力
いきなりのオファーに、ただただ驚いた坂田さんだが、その後たびたびこの地を訪れるうちに、
「それもいいかな」と思うようになった。民宿の裏にある小高い丘には、小さな神社があった。
岩がご神体の原始的なそれは、地域の人たちが大切にしてきた地域の守り神である。
藪に覆われた小道を辿ってみれば、昔の棚田の跡が現れ、その先から川のせせらぎが聞こえてきた。
分け入れば見事な滝が現れた。その山では、坂田さんが好きなワサビの栽培もできると知った。
考えてみれば、岩国は民宿経営にふさわしい場所だ。空港もあるし新幹線も止まる。
広島や宮島も近いから、そこの観光客を呼び込むこともできるだろう。
坂田さんの心は決まった。
「この民宿を継ごう。ここの自然を利用して、都会では味わえない体験をしてもらって、
たくさんの人に地方への移住のきっかけを提供しよう」。

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最も高い壁
ところが、坂田さんの眼前には越えなければならない高い壁がそびえていた。家族の存在である。
妻に構想を語ると、「65歳の定年まで働いて欲しい」と即座に反対された。
3人の子どもたちは既に独り立ちしているとはいえ、現在の暮らしを手放して見ず知らずの土地に移住することは、妻には考えられないこと。華道、茶道、着物、料理などに才能を発揮する妻ならなおさら、彼女には大切なコミュニティが都会にある。
妻に「どうしても」と頼み込んで、坂田さんは半ば強引に、単身で岩国へ移住することになった。
57歳、会社を早期退職しての再出発だった。

コロナ禍に見舞われて
令和2年4月、坂田さんによる農家民宿「和楽の里」がオープンした。東京から知人らも訪れて、意気揚々とした船出だったが、
ほどなくして不穏なニュースが海外から聞こえるようになった。そして、大嵐がやってきた。新型コロナの感染拡大である。
5月25日、緊急事態宣言が発出されると、民宿の営業は自粛に追いやられた。
予約もいくつか入っていたが、受け入れることはできなくなった。
焦りと苛立ちのなか、坂田さんはワサビ作りや滝への山道の整備等に汗をかいた。滝のそばの棚田を拓いてキャンプ場も整備した。しかし、宿泊客をとるわけにはいかなかった。観光地・宮島でさえも閑古鳥が鳴いていた。
そんな坂田さんに地域の人たちが声を掛けた。地域に生まれ育った人たちでつくる「地子会(じごかい)」という集いに、
「あんたはここの生まれじゃあないけど」と言いながら招いてくれた。
そして、草刈りや清掃等の地域活動にも参加し、人の輪が広がった。
「ここにはしっかりしたコミュニティがあります。毎日の暮らしが、それに支えられているんです」。

夢の広がり
コロナ禍を経験して、坂田さんの考え方にも変化があった。外からの観光客ばかりではなく、
近くの人たちにも、この地の良さを知ってもらいたいという思い。
それは、地元で広がる人の輪を背景に、コロナ禍が過ぎた後にほどなく実現するだろう。そして、もう一つ。
インターネットを活用して、この地での暮らしの良さを全国に発信しようという試み。
自ら整備したワサビ畑で作物を得て、それを通販で販売する。
また、田舎暮らしについて語り合うコミュニティをネット上に作り、都会から地方への移住の促進につなげたい。
「いつか、妻もここに来て、外国人にもこの田舎暮らしと日本文化のすばらしさを伝えられたら」。
坂田さんの夢は海外にも影響を及ぼす勢いだ。

坂田さんの孤軍奮闘は、地域の人々の助けを得ながら、地方創生の息吹を確かに芽生えさせようとしている。
奥様がその魅力に気付くのも、そう遠くないだろう。

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山里民宿 和楽の里
〒742-0301 山口県岩国市周東町祖生3130
Tel/0827-93-2898
HP http://warakunosato.net

<体験メニュー> ※すべて要予約
宿泊体験:現在は新型コロナ感染予防のため自粛中
手打ちそば(3,000円/人、2名から)
シャワークライミング(沢登り)
滝の近くでのキャンプ